東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)54号 判決
原告主張の一、二、三の事実については当事者間に争いがない。そして、原告は本件第四〇六、九二五号登録実用新案の登録無効審判事件の審判において、同実用新案の登録が冒認によつてなされたものであるとの争いのある主張事実につき、これを立証するため証人尋問の申請をしながら、これに要する費用の予納命令に応ぜず、その予納をしなかつたことは弁論の全趣旨に徴して明らかである。ところで、前記審判につき準拠すべき旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第二六条、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一一九条の二には、審判または抗告審判においては費用を要する行為につきその費用の予納を命ずることを得る旨を規定し、予納を命ぜられた当事者が、その命令に従わず費用を予納しない場合の措置について、同様の事項に関して規定した新特許法(昭和三四年法律第一二一号)第一六九条第三項が、この場合に民事訴訟法第一〇六条第二項の「当事者カ裁判所ノ命ニ従ヒ費用ヲ予納セサルトキハ裁判所ハ前項ノ行為ヲ為ササルコトヲ得」との規定を準用しているのに対し、この点必ずしも明白に規定してはいないけれども、旧法のもとにおいても特許法一一九条、特許法施行令(大正一〇年勅令第四六〇号)第八条によれば、審判および抗告審判の費用は当事者をして負担せしめ、国庫においてこれが支払の責めに任ずるものでないことは明らかであるから、当事者の証拠の申出の如きも、一応その申出人の責任と負担とにおいてなすべく、必要な費用の予納を命ぜられた当事者がその命令に従わないときは、該証拠の取調べをしないことができることは、これを明らかに規定した新法と全く同一に解釈するのが相当である。したがつて、特許庁が、請求人たる原告申請の証人尋問を実施せず、原告の前記主張事実の証明がないとして原告の請求の当否につき判断したことを非難するのは当たらないものというべきである。もつとも、原告は、本訴においてさらに前記争いのある事実につき証拠調の申請をすることは少しも妨げのないことであるが、原告はその申請をせず、主張自体も被告の冒認を主張するのみで真正の考案者についての主張すら明らかにしていない。それゆえ、当裁判所においても、原告主張の登録無効原因についてはこれを肯認するに由なく、右無効原因の存在することを前提とし、前記審決が違法であるという原告の主張は失当というほかはない。